
採用活動の質を高める「フォローアップ」の本質と実践的アプローチ
選考におけるフォローアップは、アトラクトに大きな影響を与える重要な要素です。では、「正しいフォローアップ」とはどのようなものなのでしょうか。また、それを実践するために必要なポイントとは何なのでしょうか。 今回は、フォロー […]
目次
内定承諾を得るためには、どのようにGRIPを行うかが非常に重要です。 しかし、事前の体験設計や効果的なコミュニケーションの方法、最終段階でのアプローチに関するノウハウの不足、さらにはGRIPが行える人材の不足といったリソースの課題により、思うように内定承諾を得られないという声も多く聞かれます。
そこで今回は、内定承諾を得るために必要な体験設計やコミュニケーションの手法についてご紹介します。
同じ「GRIP」といっても、新卒採用と中途採用ではその進め方にさまざまな違いがあります。
まず大前提として、新卒採用では接触機会が豊富にある一方、中途採用では短期間で選考プロセスが完了するため、接触機会が限られています。新卒採用の場合、長ければ1年近くの期間をかけて候補者と関係を築くことができますが、中途採用では通常1~2か月程度。この限られた期間内で効果的にGRIPを行う必要がある点が、中途採用ならではの難しさです。
次に、不安や懸念要素の具体性の違いがあります。新卒の場合、実務経験がないため質問内容が漠然としがちですが、中途の場合は「組織形態はどうなっていますか?」「評価制度のサイクルや評価者は誰ですか?」といった、より具体的な質問が出てきます。
給与面についても、新卒であれば初任給の提示で完結することが多いですが、中途では各種手当など報酬制度の詳細についての確認が求められます。こうした具体的な不安や懸念を解消しなければ、GRIPを成功させることは難しくなります。
最後に、キャリアプランに対する考え方の違いです。新卒の場合は、そもそも配属ガチャと呼ばれるように業務内容が入社するまでわからないケースも多く、入社後に自身のキャリアを模索するケースが多いですが、中途では、転職先でのキャリアプランが自分の希望と一致しているかが重要な判断基準になります。この点が曖昧なままだと、不安要素となり、GRIPにつなげることができません。
これらの3つの違いが、新卒採用と中途採用におけるGRIPのアプローチを大きく変える要因となっています。
よくある課題として、「事前に体験設計やコミュニケーションを十分に行っていなかったために、GRIPができなかった」というケースがあります。 その主な要因の一つとして、「ジャッジメント(合否判断)」と「アトラクト(魅力付け)」を明確に分けて考えられていないことが挙げられます。
【ジャッジメントの設計】
ジャッジメントにおいて重要なのは、各選考フェーズで「誰が・何を・どこまで評価するのか」を明確にすることです。例えば、一次面接ではどのスキルや適性を評価し、二次面接ではどこまで深掘りするのか、あるいは評価対象としない項目は何かを決めておくことも、体験設計の一環です。
合否判断は、やろうと思えばいくらでも精査し続けることができます。しかし、このプロセスをしっかり整備しておくことで、アトラクトに充てる時間を確保しやすくなります。
【アトラクトの設計】
アトラクトの設計では、「誰が・どの観点で・何を使って魅力付けを行うのか」を明確に定めておくことが重要です。例えば、一次面接ではどの情報をどのように伝えるのか、二次面接ではさらにどのポイントを強調するのかといった設計が求められます。
これらは、その場の判断で対応するのではなく、事前に標準モデルとして設計しておくべき要素です。標準化された体験設計を整えることで、一貫性を持ったアプローチが可能となり、より効果的なGRIPにつながります。
【体験設計の具体的な方法例】
このような表を作成して設計を行うことで、情報の漏れを防ぎながら、統一されたプロセスを確立できます。設計の際は、まず最終的なゴールを明確にし、そこから逆算して「何を・どのように実施すべきか」を組み立てることで、より洗練された形にまとめることができます。
「候補者の不安を払拭する」という点は共通の目標ですが、企業ごとに伝えたい魅力は異なります。そのため、各フェーズで適切に役割を分担しながら、候補者に企業の魅力を十分に伝えきることが重要です。適切な設計と標準化を行い、円滑にバトンパスをすることで、一貫性のある採用体験を提供できます。
情報を適切に伝えるために、「誰が・何を伝えるべきか」は アトラクト4P のフレームワークに沿って考えます。選考の各プロセスで、誰が・何を評価するのかを明確にすることで、より一貫性のある選考・アトラクトが可能になります。
・Philosophy(MVV:ミッション・ビジョン・バリュー)
人事が概要を伝え、最終的には経営陣が熱意を持って語る
・People(メンバー・組織の雰囲気)
事業部から伝えることが多いが、産休・育休の復帰事例などは人事が伝える
・Profession(業務内容・やりがい)
事業部から具体的な仕事内容や成長機会を伝える
・Privilege(報酬・評価制度・福利厚生)
人事が担当し、制度面の詳細を説明する
特にPhilosophyは、初回の説明時には人事が概要を伝え、最終面接では 経営陣が直接語る ことが重要です。候補者に企業の想いを深く伝えるため、社長自らが熱意を込めて話す場面を設けましょう。
アトラクトだけでなく、ジャッジメントにおいても役割分担を明確にすることで、選考の精度を高めることができます。
・人柄・スタンス・カルチャーフィット
人事が評価し、事業部が確認
・業務スキル・ビジネス戦闘力・論理的思考力・コミュニケーション力
事業部がメインで評価し、人事が補足確認
GRIPできる人材がいない場合の対策としては、 採用に直接関与していない社員も含め、エピソードトークを収集することが有効です。適任者がいなくても、似た境遇の社員の体験談を紹介したり実際に会わせることで、候補者の共感を引き出す環境を整えることができます 。そのため、 社員のリアルなエピソードをスプレッドシートなどに蓄積し、面談時に効果的に活用しましょう 。
<エピソード例>
・前職では深夜残業が多かったが、転職後は残業が減り、働きやすい環境の中で成長できている
・将来的には起業を考えているが、ここにはそのためのスキルや経験を積める環境が整っている
候補者との共通点は、働き方や環境に関すること以外にも活用できます。例えば、出身大学が同じ・年齢が近いといった共通点がある社員と会わせることでも、候補者の不安は払拭できます。
特に、年齢に関する懸念がある場合には有効です。例えば、企業の平均年齢が28歳であると伝えている中で50歳の候補者の選考を行っている場合、 「組織になじめるか」という不安があるかもしれません 。 そこで、55歳の社員と実際に会ってもらえば、安心感を与え、GRIPにつなげることができます。
ただし、 完全にプライベートな話を共通点として持ち出すのは避ける ようにし、あくまで採用に関係する要素に絞りましょう。
もう1つ重要なのが、 候補者ごとに「頭の納得・心の納得・不安要素や懸念事項・他社の選考状況」などを整理し、管理することです。
例えば、以下のような管理表を活用すると、より効果的なアトラクトが可能になります。
このように、候補者ごとの状況を可視化し、面接前に関係者と情報共有することが大切です。この管理シートは、GRIPするための重要なインフラとなります。適切な情報管理と戦略的なアトラクトを組み合わせることで、候補者の納得度を高め、最終的な意思決定を後押しすることができます。
GRIPを強化するためには、インフラ整備に加えて「面接内の逆質問の時間」が非常に重要です。
例えば、求職者から「どんな人が活躍していますか?」という質問があった場合、その背景には「前職で自己肯定感を得られなかった」「自身の適性に不安を感じている」といった懸念が隠れているかもしれません。そのため、単に質問に答えるだけでなく、不安や懸念を解消するような回答を意識することが不可欠です。
特に最終面接では、アトラクトを最大化することが求められます。志望度が高い求職者は積極的に質問をしてくる傾向がありますが、志望度が低い場合は質問が少なくなる傾向があります。そのため、事前の選考プロセスで収集した不安や懸念点を、最終面接で経営陣がしっかり解消した上で、オファー面談へ進めることが大切です。
仮に最終面接時点で志望度が低かったとしても、求職者が不安や懸念を抱えている場合、社長や役員の口から熱意やビジョンを伝えることで、志望度が一気に高まる可能性があります。したがって、最終面接では「何を伝えるべきか」を明確に設計し、アトラクトの最大化を図ることが必要になります。
採用担当者の中には、「最終的に迫るコミュニケーションができず、結果として他社に流れてしまう」という課題を感じている方も少なくありません。オファー面談では、条件通知書を提示する前のコミュニケーションが極めて重要になります。
例えば、以下のような状況の候補者がいたとします。
・オファー面談の実施時期:最終面接から1週間後
・他社の選考状況:3社から内定を獲得、さらに2社が選考中
・意思決定の基準:年収よりも「働き方」を最重視
・その理由:子どもが生まれるため、家族との時間を大切にしたい
・他社の提示条件:内定が出ている3社のうちA社の年収が最も高く、1,000万円
この場合、候補者が本当に求める「働き方」が叶うかどうかを確認した上で、自社の魅力を伝えることが重要です。
【具体的な進め方】
STEP1:候補者の希望条件を明確にする
「一番年収が高いのはA社の1,000万円ですが、もし年収900万円以上で残業がほとんどなければ、希望する働き方は実現できますか?」と確認する。
→YESの場合:A社の残業時間が長いことを確認し、自社との違いを伝える。
STEP2:条件通知書の提示前に魅力を伝える
年収900万円以上であること、残業がほぼないこと、家族との時間を大切にできる環境であることを説明し、「この条件であれば第一志望になりますか?」と確認する。
→YESの場合:「この条件通知書に本当に900万円以上と書かれていたら、この場で承諾していただけますか?」とさらに確認する。
STEP3:条件通知書を提示する
候補者の納得を得た上で、正式に条件通知書を提示する。
仮に候補者が「やはり年収が最も重要」と考えており、A社の提示額(1,000万円)を重視する場合でも、条件通知書を提示する前に昇給の可能性や評価制度について説明することが大切です。そして、「現状の提示額はA社より低いが、評価制度によっていつ頃1,000万円を超えられるのか」を具体的に伝えるようにしましょう。
オファー面談は、以下の流れで進めると効果的です。
①ヒアリング
②Yes取り
③自社の魅力を伝える
④承諾の確認
⑤迷いがある場合はクロージング
⑥条件通知書を提示する
この流れを徹底することで、オファー面談の成功率を高め、候補者の意思決定を確実なものにできます。
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